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井上ひさしさん最後の長編小説「一週間」発売へ(読売新聞)

 今年4月に肺がんで亡くなった井上ひさしさんが、病床で出版の準備を進めていた最後の長編小説「一週間」が30日、新潮社から発売される。

 日本兵のシベリア抑留をテーマにした作品で、あとは原稿を手直しする「改稿」を残すだけだったが、芝居の台本作りや昨年末からの入院で手つかずのまま。しかし井上さんは、代表作「吉里吉里人」を超えるものに仕上げたいと意欲を持ち続けていた。

 「抗癌(がん)剤の副作用を口実にするのは卑怯(ひきょう)ですが、二回目はとくにひどかったです。それでついつい怠けてしまいました。けれどかならず、できるだけ早くに改稿を終(おわ)らせますので、なにとぞ、お助けください」

 2回目の抗がん剤治療を終え、自宅に戻った井上さんは今年初め、書籍化の担当編集者だった水藤(すいとう)節子さん(61)に、こんな手紙を送っていた。「一週間」は2000年から06年まで数度の中断を挟み「小説新潮」に連載された原稿用紙900枚超の大作。「『吉里吉里人』以降、それより優れた小説を書けていないとおっしゃっていた先生は、『一週間』に手を入れ、『吉里吉里人』を超えるものにしたいとお考えでした」

 だが、時間が取れなかった。妻のユリさん(57)は言う。「不況で(井上作品を上演する)こまつ座の経営が苦しくなり、お客さんを呼べる新作を書くために小説はやめてしまった」。それでも昨年10月に肺がんと分かると、「死ぬ前に片づけなければならないいくつかの仕事」の一つに「一週間」の改稿を挙げたという。

 井上さんは水藤さんへの手紙の最後に、こう記した。「『これからもよろしく』と簡単に書けなくなってしまったところが、心細いです。それでもあえて書きます、これからもよろしく御高導ください」

 「一週間」は、シベリアに抑留された日本兵向けにソ連が出す「日本新聞」の編集に携わる中年男性を主人公に、シベリア抑留はなぜ起きたのか、当時のソ連や日本軍とは何だったのかを問う。大きなテーマを掲げながら、笑いや冒険活劇風な展開を入れ、さらに、絶望の中にかすかに浮かぶ希望、過去を受け止め伝えることの大切さなどを訴える、井上作品の集大成だ。

 「ひさしさんらしさが詰まった、とても面白い作品」とユリさん。「最近のひさしさんは、劇作家としてばかり評価されていたけれど、小説家井上ひさしもいい。そう知ってもらえるとうれしいなあ」

 (村田雅幸)

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